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<title>Be Lush High School～僕たちのドキワク☆な日々～</title>
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<description>少年甘味堂が送るボーイズラブ小説・イラストブログ</description>
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<title>Ｂｅ　Ｌｕｓｈ　Ｈｉｇｈ　Ｓｃｈｏｏｌへようこそ</title>
<description> この学校（サイト）を見学される前に　この学校（サイト）は名前の通り、少年愛を育む少年達の高校生活ストーリーのみで展開されているサイトです。　よって、そういったやおい的な小説が苦手な方は見学をお控えください。　またこのサイトの中の出来事は二次元の世界であると認識した上でお読みください。　ところによって際どいシーンもございますので、１５歳以下の方はまだ入校できません。ご了承ください。責任は負いかねます
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<![CDATA[ <font color="#FF3366">この学校（サイト）を見学される前に</font><br />　この学校（サイト）は名前の通り、少年愛を育む少年達の高校生活ストーリーのみで展開されているサイトです。<br />　よって、そういったやおい的な小説が苦手な方は見学をお控えください。<br />　またこのサイトの中の出来事は二次元の世界であると認識した上でお読みください。<br />　ところによって際どいシーンもございますので、１５歳以下の方はまだ入校できません。ご了承ください。責任は負いかねます。<br /><br /><br /><br /> <font color="#FF00CC">目次</font>（見たい作品がありましたら、右脇のカテゴリー別で入るとすんなりと見れます）<br />　[美術部]皆川星彦・・・足が不自由だけど心優しい少年の少し切ないお話です。ジンコ作。<br />　[軽音部]或見汰雲・・・芸能人の普通の恋。汰雲の心情がメインです。チャキロー作。<br />　[軽音部]橘礼司・・・親友である汰雲に密かに思いを寄せている礼司目線の作品です。チャキロー作。<br />　[ブラスバンド部]梶木正嗣・・・主にマグ×タク（汰雲）です。わりとエロ有り。ジンコ作。<br />　[軽音部]城戸恭介・・・３Ｐも有り。わりとエロめです。ジンコ作。<br />　[軽音部]駒居俊輔・・・汰雲を狙っている屈折ぎみの男の心情を書いた作品。ややエロです。チャキロー作。<br />　桐と律希・・・ちょっと不幸なお話です。若干（？）鬼畜も有り。虐待シーンもあったりするので苦手な方はご覧にならないことをお勧めします。チャキロー作。<br /><br /> ]]>
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<dc:subject>[BL高校]このblogは</dc:subject>
<dc:date>2030-01-01T00:00:00+09:00</dc:date>
<dc:creator>少年甘味堂</dc:creator>
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<title>美術部・皆川星彦・140　　　　（ジンコ）</title>
<description> 「幻痛が無かったって？ それはいい傾向じゃないか」　間もなく消灯を迎える病室。星彦に注射の準備をしていた薫が手を止めて答えた。　見舞いの別れ際、星彦と知宏はいつもキスをする。幸せだけど、星彦には背中の痛みを強める行為だった。　それが今夜はどうだろう。甘く蕩けるようにキスを差し仕込まれても、長く蜜を受け取ってようやく唇を離しても、うっとりとした眼差しで知宏を見送っても。ずっと星彦の背中はズキリともし
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<![CDATA[ 「幻痛が無かったって？ それはいい傾向じゃないか」<br />　間もなく消灯を迎える病室。星彦に注射の準備をしていた薫が手を止めて答えた。<br />　見舞いの別れ際、星彦と知宏はいつもキスをする。幸せだけど、星彦には背中の痛みを強める行為だった。<br />　それが今夜はどうだろう。甘く蕩けるようにキスを差し仕込まれても、長く蜜を受け取ってようやく唇を離しても、うっとりとした眼差しで知宏を見送っても。ずっと星彦の背中はズキリともしなかった。<br />　たまたまだったのかもしれないけれど、幻痛が起こらなかった事は主治医の薫にちゃんと話しておいた方がいいかと切り出した所だった。<br />「ええ…。いつもなら痛みを我慢するのも辛くて……。それがどういう訳か今夜は無かったんです」<br />説明が上手くつけられない。<br />　針先に背中を襲われていた幻覚の日々。苛められている痛みの理由を知宏が知れば彼は自責する。<br />　浅はかだったと思う。後先を考えず、気持ちを衝動のままに知宏へ伝えてしまった。<br />　結果は後悔ばかりが積もって内に篭る苦しみが募った。親友の楯薪にさえ言い出せない。そんな自分が浅ましく思えて、また気持ちを痛くしていた。<br />「ただ……なんて言ったらいいのか…とっても気分が良くて…」<br />　そう。今夜の星彦には知宏を恐れず求めて良いと囁きが聞こえていた。導いてくれるような、そんな声にとても胸をホッとさせられた。<br />「ここが…ここがね、ほっこりしてるんです」<br />　と、胸に空いている手を当てた。話している表情には安らぎさえ見える。<br />　今日、楯薪とちゃんと話せた事で解き放たれたものは大きい。<br />　親友こその厳しい声を張ってくれた楯薪は星彦の気持ちも体も抱きしめてくれた。星彦にとってとても幸福な時間だったのは言うまでも無い。<br />「うん…そうだね。顔つきが随分と変わって見えるな」<br />　注射を抜いた後に宛がった消毒綿を大きな手が押さえると、星彦の腕は包まれてしまうほど細くなった。それにこうして繰り返される検査や処置の度の注射痕が点々と目立つようになった。<br />　もう一方の手で星彦の首筋へ掌を添わせればジットリとして熱を感じる。見た目の回復とは違う現実のギャップ。これで熱も下がっていたらどんなに良かったか、残念に思うが表情には出さない。<br />「まだ熱はあるけれど顔色は朝よりもずっと良いよ。何かいい事でも……ああ、…あったみたいだね」<br />　星彦の枕元にあるもの。携帯と並んで置かれていた封筒に気付いた。薫の視線を辿った星彦もエヘと照れ笑いを零す。<br />「それ…桐クンから…です」<br />「へぇ。桐君かい？ そう言えば手術の時以来かなぁ、彼を見たのは。そうか、今日来ていたんだね」<br />「あ……いえ。桐クンは来てはなくて…楯ちゃんです。楯ちゃんが預かってくれたのを今日届けてくれました」<br />「ああ、そうだったのかい。早とちりしてすまなかったね。……今時、電話やメールで済ませる人ばかりを見ているから、手紙をくれるなんてプレゼントに感じるな。彼のことが気になっていたんだろう？ 良かったね」<br />　星彦は本当に嬉しそうに笑っている。<br />「中もイイ事が書いてあったみたいだね」<br />「はい」<br />　眩しい笑顔だった。つられる様に薫も笑ったが、心の奥底は靄が巻いていた。<br />　たった一通の手紙だ。それが患者をこんなにもやわらかく笑わせるなんて･･･。<br />　彼の存在がどれほど星彦に健やかさを与えているのか。<br />　桐という少年の不思議に、薫は初めて会った夏のパーティーを思い出す。<br />　真っ白のタキシードに身を包み、栗色の髪を束ねた桐は美少年そのもので一際目を惹いた。<br />　香水臭い貴婦人に無理強いされ、困っていた可愛らしい姿。そんな桐を手助けしたのが最初。<br />　まるでセレブパーティーな晴れやかな場で気後れしている桐を星彦がサポートしていた。<br />　桐と一緒にいる事で見せてくれた薫の知らなかった一面。星彦に対して持っていた大人しく虚弱なイメージも随分と書き換えられたのを憶えている。<br />　あの時、決して体の具合は良好ではなかったけれど星彦は確実に輝いていた。<br />　きっと本当の恋を初めてしたのだろう。切れかけの電池を懸命に回転させて星彦は駆け抜けようとしていた。<br />　それから願いが叶って二人は交際を始めるが、長くは続かず、終止符は突然に打たれた。<br />　フラれて涙したそんな恋でも、星彦の心には桐という小さな種が弾けて芽を出している。きっと預けられた祈りのように、ハートの形をした四枚の葉が枯れることなく永遠に空を仰ぐ。二人分の少年の祈りと、大切な大切な思い出とともにずっと。<br />　薫はふっと肩の力が抜けるような苦い笑みを零した。<br />　非科学的だが、これは現代医学において十分に認められるセラピーだ。しかも強い薬での副作用も無い。星彦にとって最上級に望ましい治療法だろう。<br />　それが自分はどうだ。こうして白く、細くなった腕に痣を残してしか治せない。これから先も･･･。皮肉だな、と思った。<br />「星彦君が桐君を大好きで過ごしていた時は幻痛が起こらなかったと言っていたね。それがとても頷ける気がするな」<br />「え？……」<br />　桐君を大好きで、と言われた星彦の頬がポッと赤くなる。それを誤魔化すかに「げ、原因…分かったんですか？」と切り返す。<br />「いや。残念ながらそうじゃないんだ。頷けると言ってもね、医学的では全くなくて……。でも星彦君の幻痛には少なからずとも君に頭痛を引き起こすものと重なる部分があるんだと思うよ」<br />「………精神的な…って、ですか？」<br />「そうだね。ずっと言ってきているが君にはリラックスと心の安定が必須だ。今日は君に飛び切り安らげた何かがあったりしたと考えたらどうだろう？…例えばホラ、その手紙だったり、ね」<br />　星彦はそっと自然な仕草で桐の手紙を胸に抱いた。<br />彼があの屋敷でまだ虐げられてないだろうか、ずっと心配だった。でもこの手紙にはとても順調な毎日を送れていると記されている。<br />　桐の声が聞けた訳じゃない。桐の姿を見られた訳でもないけれど、桐の今を知れた安心感がある。幸せでいてくれている事が嬉しい。<br />　それに星彦が今、安らげているのはこれだけではなくて･･････と、綺麗に活けられた花を眺めた。<br />「…そうですね…手紙もだけど、今日は随分と心の痞えが取れたんです。楯ちゃんにずっと言い出せなかった事があって…それをちゃんと話、出来たんです。…そしたらすごく、すごく胸が……」<br />　思い出すとまた泣いてしまいそうだった。楯薪の言葉。投げてくれた感情と表情のひとつひとつ。全てを鮮明に思い出せる。感謝する思いが溢れている。<br />「ほ、星彦君？」<br />「ごめんなさい…先生。幻痛の事、みんなには黙っててってお願いしたけど、僕、楯ちゃんに話しました。明日、知宏にも話そうと思ってます」<br />「いいのかい？…知宏君に知られる事を君は随分拒んでいたけど」<br />「はい。知宏にこそちゃんと話さなきゃ…」<br />　背中の幻痛は針の痛み。針は刺青。その連想の方式は薫にも容易に出来る。皆川会との深い事情に踏み込んだ話になるが故に、一度ギュッと唇を結んでから深刻な顔付きで話し出す。<br />「君の刺青の経緯は武東さんから聞いているよ。……知宏君にも話すって…君は本当にそれでいいのかい？」<br />　話せばきっと知宏の困り顔を見る事になるだろう。不安がまるで無いわけじゃない。それでも星彦はコクンと頷いた。<br />「そう。なら頑張ってみないとね」<br />「………僕は何も。……頑張ってもらうのは知宏…です。…僕が言えば彼を苦しめる。…でもそうしないと僕、僕達は…」<br />　先ほどの微笑みを何とか保とうとしているが薄く消えそうになっていた。心配を抱いているのは一目瞭然で、困ったものだと薫は肩で息をつく。<br />「ホラホラ」<br />「……ごめんなさい」<br />　今さっき、気持ちの安定が必要だと言われたばかりなのに。とことん模範的な患者にはなれないと星彦は俯いた。<br />　でも、ちゃんと話したい。聞いて欲しい。幻痛より、刺青そのものの事。切れない血に立ち向かう勇気を知宏に受け入れてもらわなければ、愛されるに値する恋人になれないと強く思っていた。<br />「なぁ、星彦君。そんな顔を見せられちゃ断固阻止したいところだよ。けど、君にとっては知宏君に話さない事の方がもっと苦しいんだろ？……いいよ。気の済むようにしなさい。…但し、君が辛さに折れてしまった時はすぐに私を呼びなさい。幻痛だけじゃ治まらない事態だって考えられるんだからね」<br />　そう言うと、奪うようにガッと星彦の手を取って握る。「あ……」と言う声とともに必然的に手紙が落ちた。しかしそれには目もくれず、薫は更に返答を求めてくる。<br />「必ず俺を呼ぶんだ。約束出来るね？」<br />「セ、センセ……？」<br />　どうしちゃったのだろう･･･。そう思わずにはいられない。<br />握ってくる力が強くて、真っ直ぐに見つめてくる視線もいつもと違う事に星彦は戸惑っていた。<br />「センセ……痛い…」<br />「……ああ、…すまない」<br />　薫は押し寄せた何かの縛りから醒めたように手を解いた。そして落ちてしまった手紙を拾って枕元に置くと、「それじゃあ、また来るよ」と言って退室していった。<br /><br /><br />　それから多分、夜中の事だったと思う。<br />　星彦は眠っていたが、真っ暗な病室に入ってくる人の気配をうっすらと感じた。<br />　今夜はここで眠ると言ったとおりに薫がやってきたのだろう。<br />　ここには備え付けの付き添い用ベッドは壁に収納されているが、決して快適な寝心地では無い筈だ。<br />　とても長時間勤務の疲れを癒せるとは思えない。薫にはゆっくり家で休んで欲しい。<br />「……せ…ん……」<br />　先生、僕は平気だよ。だから家に戻って。そう言い掛けたつもりだったが、実際には寝言にもならずにまどろみから出られないようだった。<br />　それでも額に柔らかな手が触れた感覚は分かる。冷たくて気持ちが良かった。胸を開かれたのもなんとなく意識の端にある。でもそれらはチクリと感じた一瞬の腕への痛みに消され、気だるい体はそのまままたすぐ深い眠りへ誘われたのだった。<br /><br /><br />　翌日。星彦と知宏がそれぞれ、心に決めた思いで臨んでいた日。<br />　いつものようにまず楯薪が見舞いに来てくれていた。和むおしゃべりと御菓子。それと今日は特製のホットレモネードも作ってくれた。<br />「カップ、落とさずに持ってられる？」<br />「うん」<br />「熱いから、気をつけるのよ」<br />「うん」<br />　両手でしっかりと受け取った。見ると中味は最初から半分くらいの量しかなかった。これなら重さも問題ないし、溢したとしても被害は少ない。楯薪の気遣いにまた感謝する。<br />　何より楽しみにしていたレモネード。蜂蜜と檸檬の香り良い湯気が優しく立つ。<br />「おいしい～～！」<br />　一口飲むと一気に飲み干してしまう。<br />「良かったわ。おかわり作ろうか？」<br />「うん！もっと飲みたい」<br />「ほんとにアンタはこれが好きね」<br />「他のじゃダメだよ。楯ちゃんの作ってくれるのが好きなんだよ」<br />「はいはい」<br />「だからこれからもずっと作ってね」<br />「え？……やーねぇ…。………ハイハイ」<br />なんだか妙に空いた気がする間に星彦は「楯…ちゃん？」と呟いた。でもその声は届かなかったようで、ほぼ同時に扉が開いて知宏が入ってきた。<br />「わりぃ、遅くなった。あ、いいもん飲んでんじゃん。俺にもくれよ。さみーぃ」<br />「知宏。予備校、大変だね」<br />「まぁな」<br />「なーにが、まぁな、よ。ホラ、早くコート脱ぎなさいよ。これあげないわよ？…星彦にはハイ。気をつけてね」<br />　両手にそれぞれのカップを持ってきた楯薪は先に星彦へだけおかわりを渡す。<br />「うん、ありがと」<br />　それから知宏へは受け取ったコートと入れ替えに温かいレモネードを渡した。<br />「うー、美味い。あ、これも楯が作ったな。もらうぜ」<br />　しっとりと焼かれたクッキーに手を伸ばし、頬張る知宏を横目で見つめる楯薪の眼差し。嬉しそうに静かに微笑んでいる。<br />「さてと。じゃあ、アタシはお先にね」<br />　ゴージャスなファーが襟元についたコートを手に取れば、寂しそうに星彦が口を窄める。<br />「楯ちゃん、もう帰っちゃうの？」<br />「ええ。ごめんね、ホウ。アタシも一応はお勉強があるのよ」<br />「ああ…そっか…そうだよね。…いつもありがとうね、楯ちゃん」<br />「どういたしまして。じゃあ、またね」<br />　軽くウィンクして部屋を出て行く。なんだか楯薪が帰ってしまうと病室の明りがワントーン暗くなる。華やかさが消えただけじゃない寂しさが生まれる。<br />「んな、あからさまな顔すんなよ。明日もまた来んだから」<br />「…う、うん………。あ、ねぇ、知宏？」<br />「ん？」<br />「僕達ってずっと一緒だよね？」<br />　唐突に、上目遣いのようなあどけない顔でそう訊かれ、知宏は危うくカップの中味を溢しそうになってしまった。<br />「な、なんだよ急に。あた、当たり前だろっ！ 俺達は付き合っ…てんだから」<br />　すると今度は星彦の方がビックリした顔で真っ赤になりながら慌てる。<br />「え？ あっ、そうじゃなくてっ…違う違うっ…。僕達って、僕達三人だよ。僕と知宏と楯ちゃん！」<br />「へ？ 楯？ ああ。幼馴染みってことか。そりゃ、お前の言ってるずっとって意味がどこまでかは分かんないけど、…変わらないだろ？ 何でそんなこと聞くんだよ」<br />「……うん…」<br />　なんだか楯薪が離れてしまうような気がした。さっきだって、確かに受験勉強もあるだろうが今まで以上に気を利かせて出て行ったと思えてならない。<br />　星彦と知宏が付き合うことで壊れてしまうものがここなら、都合がいい話だと思われても星彦には痛い。<br />　昨日、楯薪はアタシも星彦が好きよと言ってくれた事を強く信じよう。<br />だから今、知宏に話さなければいけない事。<br />　深呼吸一つ。心を決め、星彦はキッと知宏を見た。<br />「こ、今度はなんだよ。怖い顔して」<br />「怖い顔じゃないよ。真剣な話すんの。……ほんとに…真剣な話だよ？ だから知宏もしっかり考えて聞いて」<br />「…うん」<br />　何となく、そう言われた気分が姿勢を正させ、しっかりと星彦に向き合う。改まった話になる予感に知宏はカップをコトリと置いた。<br />「いいぜ」<br />「あのね、知宏。……僕が知宏を好きって言ったこと…忘れて聞いて欲しいんだ」<br />「は？？？？ え？！」<br />　あまりに唐突な、思いがけない話の始まりだった。<br /> ]]>
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<dc:subject>[美術部]皆川星彦</dc:subject>
<dc:date>2009-11-19T11:18:39+09:00</dc:date>
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<title>桐と律希　第二部（１８２）　〔ちゃきろー〕</title>
<description> 「あとは……金嶋から……桐を引き離さないとな……」　ポツリと呟く律希を、桐は見上げた。「……でも……」「桐、もう今更隠すな。俺、分かってんだよ。お前が俺に別れを告げたのは、アイツらに脅されてたんだろ？　全部、話してくれないか？　奴らのこと……」　桐は黙り込んだ。考えていた。本当に全てを律希に伝えていいのだろうか……。どうすれば、このまま平穏でいられるのか……。いや、平穏でいられるはずがない。金嶋にいる限り、どんな
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<![CDATA[ 「あとは……金嶋から……桐を引き離さないとな……」<br />　ポツリと呟く律希を、桐は見上げた。<br />「……でも……」<br />「桐、もう今更隠すな。俺、分かってんだよ。お前が俺に別れを告げたのは、アイツらに脅されてたんだろ？　全部、話してくれないか？　奴らのこと……」<br />　桐は黙り込んだ。考えていた。本当に全てを律希に伝えていいのだろうか……。どうすれば、このまま平穏でいられるのか……。いや、平穏でいられるはずがない。金嶋にいる限り、どんなに律希と結ばれても、平穏でいられるはずがないんだ。<br />　不安な心が、顔に、目に表れる。そんな桐を見て、律希はぎゅっと抱き寄せた。そして、耳元で囁く。<br />「桐……。もう……隠し事は無しだ……」<br />「え……？」<br />「どんな目に遭っても……俺にだけは隠し事をしないで。俺が桐の傍に戻ってきた意味を考えて……。お前と一緒に進みたいんだ……」<br />「律希……」<br />　涙が零れ落ちる。この言葉を大切にしたい。律希が今、隣にいる奇跡に賭けたい。死ぬも生きるも、生かすも殺すも……律希と一緒の未来に委ねる。律希と一緒なら、何があっても幸せでいられる。<br />　……律希も……そうだよね……。<br />　そんな願いを込めて、彼を真正面に見据えた。すると、律希もいつものあの強い目で返してくる。桐はゆっくり口を開いた。<br />「三年前のあの日……。律希と別れる気なんて、更々なかったよ。どれだけ律希の傍にいたかったか……。どれだけ律希と一緒に帰りたかったか……」<br />「桐……」<br />「でも……さよならを言うしか道が無かった。金嶋の……忠則が……異常なほどに俺を愛していたんだ……。独占しようとして、たくさん汚いマネをしてきた。律希にも……そうするって……。別れなきゃ……そうするって……」<br />　桐の目からボロボロと涙が出る。律希は怒りのあまり、これ以上握れないほど強く拳を握っていた。<br />「律希と別れても……親父の借金はまだ残ってる……。俺はあの屋敷で、最低の仕事をしていた。汚れた……最低の……」<br />　桐が詰まり詰まり口にする言葉に、律希は何も返せずに、ただずっと真剣に聞いていた。桐の嫌がる仕事は、自分のせいだったのかもしれない、そう考えると律希のショックは大きかった。桐を思うと、心臓がはち切れそうだった。<br />　そっと桐の頭を腕の中に収めた。首元に桐の息がかかるたびに、くすぐったくて体が震えたが、放したくは無かった。<br />「別れてからも……ずっとずっと律希を想ってた。一生結ばれなかったとしても、律希が好きだった。皆川サンと付き合うこともできたよ。それでも……結局は律希が……ずっと……」<br />　涙が止まらない。色々な想いが溢れて、うまく喋れない。会話を先に進めたくても、嗚咽が漏れてしまう。そんな桐に代わるように今度は律希がゆっくりと口を開いた。<br />「俺も……俺も、桐のこと忘れたことなんてなかった……」<br />「え……？」<br />「確かに、記憶は失くした。でも、それは強制的なもんで……そうじゃなくて……」<br />「うん。聞かせて……」<br />「恭介と付き合ってた頃、本当に俺はアイツのことが好きだった。変な話、桐を知らない俺だったら……確実に落ちてた……」<br />　桐は、その告白に分かっていても胸がズキリと痛んだ。今はここでこうしているというのに、聞きたくない想いもある。それほどに、律希が好きなのだと痛感した。<br />「でもね……やっぱダメだったんだ……。お前が俺の中から消えたことなんて……一度だってなかった……。記憶を失くしてる時だって、ずっとずっと心の奥にいて、消えてくれなかった……。だから、今こうしてお前の傍にいるんだ……」<br />「律希……」<br />「前にも言ったけど……。俺はね、中途半端な気持ちを抱えて、フラフラし続けてた。最低だよ……。たくさん……色んな人を傷つけた。苦しめたし……。自分が楽になりたいからって選んだ道は……ちっとも楽になんかならなかった。よけい苦しくて……辛くて……情けなかった……」<br />　そう言って、律希は桐をもっと強く抱き寄せた。<br />「桐……。お前は汚くなんかないんだよ……」<br />「りつき……」<br />「本当に汚いのは俺の方なんだから……。自分で自分を汚した。ずっとずっと、桐よりも数倍汚いんだよ……」<br />　そっと横を向くと、律希の目に光る雫が見えた。それがとても綺麗に見えて、桐は律希の言葉の全てを何が何でも否定してあげたくなった。<br />「律希は汚くなんかないよ！　俺の方が……もっと汚い！　俺は家族も……血も汚いんだ。律希だって思い出したんだろ！　俺たちの……俺の家のこと……。ごめん……。ごめんよ！」<br />「桐……」<br />「謝っても許されることじゃないよね。俺の母親がしたことは最低のことで……。俺……俺……」<br />　興奮する桐とは逆に、律希は静かにその言葉を聞いていた。一言一言を噛み締めるように……。そして、ゆっくりと口を開く。<br />「桐が謝ることじゃねえよ」<br />「でも……」<br />「むしろ……俺が謝んなきゃなんねえよ」<br />　桐は、律希の言葉の真意が読み取れずに、しばらく唖然としていた。やっとの想いで言葉が出る。<br />「どうして……？」<br />「桐から……母ちゃんを奪ったのは俺の親父じゃねえかよ！　最低じゃねえか……」<br />「律希……」<br />　桐の頭の中には全くない考えで、ドキリとした。母親を奪われたなんて、微塵も感じていなかった自分に、逆に驚いた。<br />「一番の悪は親父だよ。俺の母ちゃんも親父に殺されたようなもんだ。最初から憎んでたけど……最低だったよ。殺したいくらいだ……」<br />　律希の左手は血が滲むほど強く握り締められていた。ブルブルと震えているのが、本当の怒りを表していた。<br />「ごめんな……。桐……。桐の虐待の一因が、俺の親父にもあるなんて……。マジで悔しい……。母ちゃんが火をつけてなかったら、俺がつけてた……。きっと……」<br />「律希！　そんなこと言わないで！　律希は１つも悪くないのにっ！　俺の……俺の親のせいなのに！　もしも……もしもあの火で律希も一緒に逝ってたら……俺はきっともうこの世にいなかったよ！　俺がどんなに虐待されても、何をされても、生きてこれたのは律希がいたから。どんな時も傍にいてくれたから……人間でいられたんだ！」<br />「桐……」<br />「俺は律希がいないと生きられなかった……。きっとこれからもそう……。律希しかない。俺の人生は……。律希さえいてくれたら、何もいらない。欲しいものなんて何も無い。律希と会ってからずっと……その気持ちは変わらないよ……」<br />　そう言いながら、桐は自分が何故、母親を奪われた被害者だと微塵も感じなかったかが分かった。自分を捨てた母親よりも、ずっと律希を愛していたから……。律希のことしか考えられなかったから……。<br />　桐の言葉を受けて、律希も言葉を返す。<br />「桐……。俺もだよ。俺も……同じだ……」<br />「律希……」<br />「俺の気持ちは、あの時のあの公園から……いや、もっともっと……ずっと前から変わってない。もしも……あの火事が起こったことで桐とこうなれたんだとしたら、俺は悔やんだりしない……。感謝してえくらいだよ……」<br />「そんな……律希……」<br />「本当だよ。事実を聞いた時は、確かにショックだった。でもな……考えたんだ……。親父はああいうヤツだ。きっと桐の母ちゃんじゃなくても、いつかこうなってたよ。俺の母ちゃんは、精神的に弱かったみたいだし、嫉妬深くて……きっと誰であっても結果は同じだったんじゃないかって思ってる……」<br />「律希……」<br />「でも、親父が桐の母ちゃんを選んだ結果、こうなったのなら、俺は受け入れようと思う。それで桐とこんなにきつく結ばれたんだとしたら……俺はひとつも不幸に思わない。だから、桐……。もう親のことで自分を責めるのは、よしてくれ。俺はお前から母親の愛情を奪った親の子だよ。そんな俺が桐にできることは１つだけ。お前の母ちゃん以上にお前を愛するよ……。誰にも負けないくらいに……」<br />　律希の言葉は、全身に稲妻が走ったように桐を震わせた。痺れる感覚とは、こういうものなのかと、しばらくはその電流に浸っていたかった。<br />「律希……。俺も……俺も……。律希の両親以上に愛するよ。母親よりも律希がずっとずっと必要だよ。誰よりも……俺が一番、律希を必要としてる……。本当に……。本当に……」<br />「ありがとう……桐……」<br />　桐は首をゆっくりと横に振った。涙で声も滲む。うまく返せない。<br />「桐……１つだけ約束してくれる？」<br />　桐は声を出せないまま、その返しとして律希を見つめた。それでも視界は涙でぼやけてしまう。<br />「もう二度と……さよならを言わないで……」<br />　その言葉に、桐は大きな嗚咽を漏らした。言葉を口にしたかったのに、出たのはしゃくりあげるような息だけ。涙はこれ以上出なかった。律希の悲しみの元凶は、何よりもそれだったのかと思うと、涙も出なくなる。<br />「桐の“さよなら”は、もう聞きたくない……。死んでも聞きたくないんだ……」<br />　律希はそう言って、大粒の涙を零した。桐の目には珍しく映る泣き顔の律希。一生懸命、強くなろうとしていた律希を見て育ってきた。そんな桐だからこそ、涙の律希には胸が締め付けられる。何度か見てきた律希の涙は、本当に悲しい時に零れ落ちた。<br />　桐は思わず律希を抱き締めた。昔も、悲しみに満ちた律希に面した時は、こうしていた。やっとそれができた。<br />　……これからも……ずっと……ずっとこうして抱き締めてやるんだ……。俺の役割り……。どうか誰も……取らないで……。<br />「桐……好きだよ……。桐が好きだ……」<br />　胸の中で律希が囁く。それは夢か幻のようで怖くなった。桐は必死で刻み込む。目蓋の奥に……胸の中に……頭に……爪の先から髪の先、血液の中まで……。もし命が終わっても、この想いだけは永遠に残るように……。彼を愛し愛された記憶が、どの時代にも残り続けるように……。<br />　二人はしばらく、動くことなくそうしていた。お互いの鼓動だけが聞こえる。それだけでいい。それだけで幸せだった。どれだけそうしていたのか分からない。遠くの校舎から、チャイムの音が聞こえて、静寂が破られるまで、一瞬の中にある永遠に酔いしれていた。<br /><br /><br />　放課後のざわつきが聞こえてくる。桐はやっと口を開いた。<br />「このまま……ずっと二人でいられるには……どうしたらいいんだろう……」<br />　クリスマスと同じやり取りをしていた。あの時は一緒に逃げようと誓い合った。しかし、逃げた先、どこに行けるのだろうか……。ふいに桐の脳裏に、久頼と悠という男のことが過ぎった。久頼は言った。悠は逃げ切れずに選ぶように崖から落ちた……と。金嶋家から本気で逃げるには、死しかないのだろうか……。考えると震えが走る。<br />「桐……。このやり取り、クリスマスでもしたね……」<br />「うん……」<br />「あれから、どうなったの？　お前はどうなって今、俺の傍にいることができるの？　前は、話すこともできなかったのに……」<br />　桐は小さく息を吐いてから、話を始めた。<br />「泰成さんの見張りがなくなったんだ……」<br />「なんで？　あんなにしつこかったのに」<br />「金嶋家には長男がいるんだ。その人が、俺を自由にさせてくれてる……」<br />「え？　長男が？　なんで？　意味……分かんね……」<br />「律希が……欲しいからだよ……」<br />「は？」<br />「律希は、長男に会ったことがあるんだ」<br />「え？　いつ？」<br />「律希、前に病院に連れて行かれたことなかった？」<br />「えっ……あっ……ああ、まさか？」<br />「そう。その人が金嶋久頼。律希はその人に……好かれてる」<br />「え？　でも……たったあんだけしか……」<br />「律希というより、律希の中にいる悠って人が……愛されてるんだ……」<br />　そして、困惑している律希に、桐は丁寧にその悠にまつわる話と久頼から与えられた条件を伝えた。悠が死んでいること。悠と久頼と八木の関係。久頼から与えられた期限と条件。全てを……。<br />　律希は困惑しながらも、真剣に桐の話に耳を傾けていた。全てを聞き終えた律希からは、何の言葉も発せられなかった。しばらくの間、重い沈黙が続く。<br />　やっとの間で、律希が口を開いた。<br />「久頼……」<br />　聞き逃すほど小さな声。しかし、その一言の呟きは、桐の心に妙に残った。声は小さくても、とても重く響いた。何か大きな決意をしているように聞こえた。<br />「り……律希！　何か変なこと考えてないよね！？　言ってよ！　ちゃんと……ちゃんと俺に言ってよ！」<br />　桐が問いただしても、考え込んだように「うん……」としか言わない。桐はたまらなく心配になった。<br />　そんな様子に気づいた律希は、またニッコリと微笑んだ。その目は、心配いらない……と訴えているようだった。それでも、桐は黙っていられなかった。<br />「ねえ！　何、考えてるの！？　イヤだよ！　俺……また律希と離れるの……イヤだよっ！　もし、離れなきゃならないくらいなら……一緒に死にたい！」<br />　そこまで言うと、また涙が溢れた。こんなに涙が枯れないなんて、自分の体の中に源泉でもあるんじゃないかと思えるほど……。<br />「だめだよ、桐……」<br />「え？」<br />「死ぬなんて……ダメだ。それじゃ、何も解決しない。だからこそ、久頼は未だに囚われてるんだろ？」<br />「律希……？」<br />「俺たちが仮に死んだら、また新たな呪縛が生まれる。誰かがまた何かに囚われる。それは連鎖する。何も……生み出さない……。悲しい呪縛」<br />　律希の言葉には重みがあった。彼自身が両親の死という呪縛に苛まれていたからだろうか……。桐は生唾を飲み込んで彼を見上げた。<br />「いいか？　桐。俺たちで……呪縛を断ち切ろう。俺たちは生きることで、新しい活路を見出すんだ……」<br />「生きること……」<br />「そう。生きて……幸せになることで全ての呪縛が断ち切れる。俺たちは生きることに意味があるんだ。生きて……幸せを掴むことに……」<br />「りつき……」<br />「誰も簡単に幸せになんかなれないよ……。心から愛する人を見つけるのだって難しい……。けど、俺たちはもう見つかってんだ。あとは、幸せになるだけじゃないか。あと一歩だよ……」<br />　律希の目が強い光を宿していた。こんなにも逞しい律希を見たのは初めてだった。どうしてこの人は、ここまで俺を魅了するんだ……と、桐は堪らない気持ちで見つめ返す。その熱い気持ちに応えるように、律希も熱い言葉を返す。<br />「桐……。幸せに生きることを諦めちゃダメだ。今までずっと頑張ってきたじゃないか！　俺たちが幸せを掴むためなら……俺は何だってやる。どうすればいいのか……死に物狂いで考える。考え抜くんだ……。な？」<br />「うん……」<br />　桐は律希がいつも以上に男らしくて、ドキドキしていた。遠くから、近くから、ずっと見てきた律希。今、隣にいる律希は、体つきも骨格も、ずっと大人びて見える。成長しているんだ、と感じた。こんなにカッコよく……大人になっていく……。桐は喜ばしい反面、寂しくもあった。彼に愛されるに相応しい生方桐でいたい。<br />「律希はカッコいいね……」<br />「え？」<br />「俺は……律希みたいにカッコよくなれない……。いつも……セコい考えばっか持ってて……弱くて……情けな……」<br />　そこまで言った時、それを塞ぐように律希がキスをした。驚いて固まってしまう。<br />「り……つき……？」<br />「弱気になるな！　俺だって……弱くて情けねえんだ……。桐の方が、ずっと強えって言ったろ！　でも……情けないだけじゃ、お前のこと、いつまでたっても助けられねえって気づいたんだよ！　だから……俺は強くなる。お前はいつまでも、そんな俺の傍にいて欲しい。二人が一緒に戦うんじゃなくて、支えあう関係でいたいんだ」<br />「律希……」<br />「俺が帰る時、いつもいて欲しい。おかえりを言って欲しい。もう何も無い空き地には……帰りたくない……」<br />　そこまで言うと、律希は何かのスイッチが入ったように、ボロボロッと涙を零した。桐は、その時初めて気づいた。律希の心の奥に潜む恐怖。それは空白。目の前に待つ人が誰もいない状態。<br />　自分が前に律希に言った“さよなら”は、それを与えてしまったのだと知った。律希が一番苦しい状態を……。<br />　申し訳なくて、桐まで涙が溢れた。<br />「俺は……いつまでも……律希の傍にいる！　どんな時も、俺の心は律希に向いている。律希が望めば、いつだって開くことのできるドアを持ってる……」<br />「桐……」<br />「律希が“ただいま”って言ったら、“おかえり”って言える……。そのためにも、俺も強くならなきゃ……」<br />「うん……。俺たちは、互いに支え合って、信じ合って、愛し合える。だから、何が起きても……二人一緒だってことだけは忘れないでね……」<br />「うん……。うん……。当たり前だよ、律希……」<br />　二人はまた手を取り合い、きつく抱き合った。怖いものは何もなかった。<br /> ]]>
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<dc:subject>桐と律希</dc:subject>
<dc:date>2009-11-14T12:04:25+09:00</dc:date>
<dc:creator>少年甘味堂</dc:creator>
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<title>桐と律希　第二部（１８１）〔ちゃきろー〕</title>
<description> 　どれだけ走ったのか……。律希が追っても来ないことに、余計悲しくなって桐は冷たい土の上で、しゃがみ込んだ。律希との最後の切り札を失ってしまった。もう彼が昔を思い出してくれることは無いと知った。　胸がつぶれそうになる。涙が後から後から溢れ出てくる。思い出を失ってしまうことが、こんなにもツライものだと初めて痛感した。今までは、悲嘆にくれながらも、この切り札がある限り、いつかは思い出してくれると信じていた
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<![CDATA[ 　どれだけ走ったのか……。律希が追っても来ないことに、余計悲しくなって桐は冷たい土の上で、しゃがみ込んだ。律希との最後の切り札を失ってしまった。もう彼が昔を思い出してくれることは無いと知った。<br />　胸がつぶれそうになる。涙が後から後から溢れ出てくる。思い出を失ってしまうことが、こんなにもツライものだと初めて痛感した。今までは、悲嘆にくれながらも、この切り札がある限り、いつかは思い出してくれると信じていた。<br />　それが今はもう無い。全ての希望が絶たれてしまった。こんな気持ちを抱いて、律希を好きでいられるのだろうか……。自分の気持ちに自信がもてない。それほどに、自分を培ってくれていた昔の律希が好きだった。<br />　あの頃の律希がいたから、今まで生きてこれた。あの金ボタンの思い出がない律希は、もはや別人にすら感じる。自分には、こんなに涙を流させるほど想いの詰まった金ボタン。なのに、それを大事にしていた張本人が、それを見て何も感じないだなんて……。<br />　一度流れてしまった涙は、止まらない。もう前が見えないほど、ぼやけている。歩き出すことすらできなかった。ただそこで、じっと泣き続けていた。律希は今、何を探して這いつくばっているのだろうか……。<br /><br /><br />「……桐……」<br />　不意に声を掛けられて、桐はゆっくりと振り返った。冬なのに、汗をかいて息を切らせた律希が立っていた。走って追いかけてくれたのだと分かると、どんなに恨み言を抱いていても、嬉しかった。<br />　その姿に、昔の律希が見えたから……。借金取りから逃げた後の公園。いじめっ子におむすびを捨てられた遠足。忠則を倒した後の校舎裏。汗をかいて息を乱す律希には、たくさんの優しい思い出がある。それがまた桐の心を締め付けた。その思い出は……律希にはもう無い……。<br /><br />　律希は、グシャグシャに泣き崩れている桐に、そっと近づいた。手には捨てた金ボタンを持っていた。<br />「これ……桐のだろ……」<br />　そう言われて、桐は下を向く。また涙の雫が、土に染み込んでいった。<br />「違うよ……俺のじゃない……」<br />「嘘だよ……」<br />「俺のじゃないってばっ！」<br />　そんな金ボタンは見たくも無い。桐は声を荒げた。もうそっとしておいて欲しかった。しかし、ずっと押さえ気味で話していた律希も、急に声を荒げた。<br />「嘘だね！　お前がくれたんじゃねえか！」<br />「……え……？」<br />　桐は呆然とする。頭が真っ白になっていて、律希が言っていることが、うまく飲み込めなかった。自分がいつからしゃがみ込んでいて、いつの間に立ち上がったのか、そんな簡単なことすら分からないほど混乱していた。ただ、近づく律希の顔をもっと間近で見たかった。その衝動だけが、桐を勝手に動かしていた。<br />　律希の目を見ると、キラキラと光った。彼の目にもまた、涙が溜まっていた。<br />「桐……。ずっと前から聞きたかったことがあるんだ……」<br />　何が起こっているのか、頭が正常に機能しない。桐は口を開けたまま、何も発することができずにいた。そんな桐を見て、律希が優しく微笑んでから言った。<br />「桐が……これを……机に入れてくれたのは……どういう想いがあったから……？　あの時、何を想っていたの……？」<br />「律希……」<br />「俺……そのことが、ずっとずっと……聞きたかったんだ……」<br />　桐は、また大粒の涙を流した。息が止まりそうだった。うまくしゃべれず、先に嗚咽が漏れてしまう。律希はそんな桐を優しく見守り、声が出るのを待っていた。<br />　ようやく桐の口から声が出る。<br />「……忘れないでっ……って……。俺のこと……っ……ずっと覚えて……いてって……」<br />　切れ切れの言葉が、静寂を破る。涙で滲む声は、新しい涙を誘った。もうこれ以上、何も喋れそうにない。<br />　すると、フワッと温かくて良い香りの毛布に包まれるような感覚が桐の全身を覆った。全ての心が入り込んでくるような不思議な感覚。律希に抱き締められている。それだけで昇天してしまいそうに気持ちが良かった。<br />「桐……」<br />　優しい律希の声が、耳元をくすぐる。桐は身悶える。涙も止まる瞬間だった。<br />「すげえ威力……。この金ボタン……」<br />　よく通る律希の声が耳から脳に伝わる。世界で一番優しい声。桐はブルブルと震えた。寒さからではない。感極まっていた。<br />「桐……。ただいま……」<br />　その言葉に、今度はこっちの記憶が全て飛んでしまうような衝撃が走った。まるで電気ショックのようだと桐は思った。うまく喋れない。<br />「思い出したよ……桐……」<br />「……ホントに……？」<br />「ホントだよ……。何もかも……思い出せた……。ごめんな……。桐……」<br />「ホントに……ホント……？」<br />「本当だって。桐が捨てた金ボタンを拾った時……一気に俺の心に入って来た。頭が……破裂するかと思うくらい……一気に……。全部……何もかも……忘れちゃいけない思い出だった……」<br />「……ホントに……律希なの……？」<br />「ホントだって……。今も昔も……これからも……。ずっと同じ逢沢律希だよ。桐のことが、好きで好きで堪らない……律希だよ……」<br />　律希の肩に、桐の涙が染み込む。桐は止める気も拭う気もない。自然のままに、思いのままに、自分の心を解放したかった。律希の腕の中で……。<br />　今までの出来事が、走馬灯のように思い出される。つらかったことも、苦しかったことも、今、全てが浄化される。桐は、律希の温もりに包まれて、死んでしまいそうだった。それくらいに、現実離れした気持ちだった。まるで幻覚のよう。ここにいる律希も、温もりも、全て神が悪戯に見せている幻なんじゃないかと想う。<br />　……それでもいい。もう……それでも……。このまま死んでしまってもいい……。全て夢なら……一生覚めない夢の中にいたい……。<br />　時間も忘れていた。一瞬だったのか、永遠だったのかも分からない時間。そんな桐の脳を覚醒させたのは律希の言葉だった。<br />「もう……放さない……。一緒に生きよう……。俺と……」<br />　あの時の公園で誓い合った言葉。律希の口から、思い出の言葉が出る。幸せで幸せで、うまく口が動かない。それでも、桐はやっとの思いで、口を開いた。あの時のこと、もう二度と忘れて欲しくない。もう二度と、離れ離れになりたくない。<br />「ホントに……律希なら……証拠を見せて……」<br />　桐は律希の腕から少し離れて、彼を見上げた。それと同時に落とされたのは、優しいキス。望みどおりの懐かしい律希。風も木々もざわついて、雲の隙間から光が差し込む。<br />　まるでドラマのような自然現象も、今の二人には感じられない。二人が感じているのは、お互いの存在だけ。お互いの息吹と、命の鼓動だけだった。<br /><br /><br />　校舎裏の壁に、二人手を繋いで寄り添った。小学生の時、忠則から逃げた後のように。久しぶりに話せて、久しぶりに手の温もりを感じ合えたあの時と全く同じ状況だった。<br />　このまま何もなければいい……。二人が繋がれると、決まってそれを壊す出来事が起こる。まるで何かのシステムが、そうなるようにインプットされているかのように。<br />　それを互いに感じているからこそ、不安も恐怖も二倍だった。言葉が出てこない。嬉しいはずなのに、幸せなのに、どこか怖い。互いの震える手を繋ぎ続けることしか、今は出来そうになかった。<br />どれくらいの時間が経ったのか、そんな静寂を最初に破ったのは、律希だった。<br />「懐かしいね……。こうすんの……」<br />「え？」<br />　桐が隣の律希を見ると、真っ直ぐ前を向いたまま、遠くを見ていた。いつの時代の景色を見ているのだろうか……。桐も同じ景色を探る。<br />「忠則のヤツから逃げてさ……。お前の手を掴んで走ったよなぁ……」<br />　その言葉で、律希が本当に昔を思い出してくれていたことが分かって、桐の目は潤む。<br />「あん時、どうしてあんなことしたのか……全然思い出せねえ……」<br />「……そう……？」<br />　桐は上手く言葉が繋げなくて、そっけない返事になってしまっただけだった。しかし、律希にはそれが“本当に思い出せてないのでは？”と疑われているように思えて、焦って付け加える。<br />「あ、いや。記憶失くす前から思い出せなかったんだ。それだけ夢中だったんだろうな……」<br />　そんな律希を落ち着かせるように桐は優しく微笑んだ。心が通じ合っている。律希がどうして慌てて言葉を繋げたのかも、全部分かっている気がした。なぜだか幻想の世界にいるような穏やかさで時間が進んでいく。<br />「そっか……。でも俺はそのおかげで……幸せが訪れたよ。律希が来てくれて……助けてくれて……それだけで幸せで……。初めてイジメられてて良かったって思った……」<br />　そう桐が言うと、律希がプッと噴き出した。<br />「なんか……それってさぁ、忠則がキューピッドみてえじゃね？　すげーヤダね」<br />「ホントだ……。なんか……ヤダ……」<br />　そう言って、桐も笑った。<br />「金嶋の奴らがキューピッドなんて可愛くなさすぎる！　ぜってー幸せになれねーって気がするな」<br />　そんな律希の言葉に、桐は一瞬動きを止めた。クリスマスのことが思い出された。<br />　……きっと何もかも思い出したに違いない……。<br />　急にこうしていることに罪悪感を抱いて、繋いだ手をパッと放した。<br />「桐？　どうしたの？」<br />　律希が心配げに見つめている。目を見れなかった。桐は俯いて、ボソボソと呟いた。<br />「ごめんね……。律希……」<br />「え？」<br />「クリスマスの時……。ごめんね……」<br />　そう言うと、一瞬律希の体がビクッとした。こんなことを言って思い出させるのも悪い気がした。それでも、一度出してしまった話を、桐は止めることができなかった。<br />「本当に……ごめん……。俺のせいで金嶋に酷い目に遭わされて……。記憶まで壊されて……」<br />　そこまで言うと、隣の律希の手が、そっと伸びてきた。放してしまった手を、もう一度繋ごうとしていた。桐もそれに応える。二人はまた１つに繋がった。<br />「ねえ……。感じる？」<br />　律希が小さな声で言う。<br />「俺の手……震えてないの……感じる？」<br />「え……？」<br />「さっきまで、あん時のことを思い出すと……決まって身震いがしてた。どんなに暑い部屋にいても、どんなに楽しいことがあった後でも……」<br />「律希……」<br />「今、桐と手え繋いでると……思い出しても怖くねえんだ。桐のことを思い出してからは、ちっとも怖くねえ。むしろ誇らしいんだ」<br />　律希の手は汗ばんでいても、震えてはいなかった。律希が言うように、前に一緒に病院へ行った時、陵辱のことを思い出して怯えてしまった彼の手を取ると、震えていたことが頭に浮かんだ。しばらく握っていても、なかなか震えが収まらなかったことを覚えている。<br />「あん時のことは……そりゃ、忘れられねえよ。けど……今は違う意味で忘れねえ。桐を守り通せた俺を……誇りに思ってる。桐を想う強い気持ちがあったから、思い出せたんだ。何も知らない俺が、またお前に恋もした……。全部、もう忘れない」<br />「律希……」<br />　律希の真っ直ぐな言葉が胸を焦がす。記憶を失くす前も後も、ずっと律希の心の中に居れたことを知った。熱い手が、それが本当だと訴えてくる。<br />　汗ばんだ手から繋ぎ目が分からなくなるくらいドロドロに溶けてしまったとしても、今なら後悔しない。そんな運命なら、むしろ幸せかもしれないと桐は思った。<br />　少しの静寂の後、遠くを見つめたままの律希が、また話を始めた。<br />「覚えてんだ……俺……」<br />「何を……？」<br />「電気ショック、受けながら……俺はぜってー桐を忘れねえって叫んだの……覚えてんだ……」<br />　勝ち誇るように笑う律希を見て、桐は目から涙がボロボロと零れ落ちた。その音まで聞こえるんじゃないかと思うほど、涙が落ちた。<br />「俺……勝ったんだよな……。アイツらに。すげー嬉しい。自分で自分が誇らしいんだ」<br />「……律希……ありがとう……」<br />　泣いている桐を見て、律希は慰めるように優しく頭を撫でた。<br />「こっちこそありがとう……。忘れちゃってゴメンな……。思い返して怖いのはそっちの方だよ。もし、あのまま桐を忘れてたらって思うと……」<br />「でも……律希は戻ってきてくれた……」<br />「不安だったろ……？」<br />　そう言って、律希は繋いでいる手の上に、もう片方の手をそっと乗せた。桐もその手の上に片方の手を乗せる。二人は向かい合うような形になった。<br />「多少はね。でも、信じてた……。命がけで守ってくれた律希を、何度も見せられたから……。信じないと、俺も勝てないって思ったから……」<br />「勝てたね……」<br />「うん。勝てた……。金嶋に……勝てた……」<br />　見つめ合うと、決まりごとのようにキスを落としてくれる律希。幸せだった。一生続くと信じたい一瞬が二人に訪れていた。 ]]>
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<dc:subject>未分類</dc:subject>
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<dc:creator>少年甘味堂</dc:creator>
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<title>桐と律希　第二部（１８０）　〔ちゃきろー〕</title>
<description> 　律希がブレスレットを探し始めてから、一ヵ月近くが経っていた。全く見つかる気配もなく、出るのはため息ばかりだった。「ないないないないなーーーーいっ！」　学校の裏庭まで、這いつくばって探した。冬の寒さの中でも、汗をかいている。手で拭うと、額に土汚れがついた。そうこうしているうちに、すっかり疲れ果てて、寝転がり空を眺めた。　雲が流れていた。冬の澄んだ空気は、気持ちが良く、律希は次の授業をサボろうと決め
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<![CDATA[ 　律希がブレスレットを探し始めてから、一ヵ月近くが経っていた。全く見つかる気配もなく、出るのはため息ばかりだった。<br />「ないないないないなーーーーいっ！」<br />　学校の裏庭まで、這いつくばって探した。冬の寒さの中でも、汗をかいている。手で拭うと、額に土汚れがついた。そうこうしているうちに、すっかり疲れ果てて、寝転がり空を眺めた。<br />　雲が流れていた。冬の澄んだ空気は、気持ちが良く、律希は次の授業をサボろうと決めた。<br />「創立者……ボビー・マイケル……かぁ……」<br />　寝転がっていても目に入る創立者の銅像が、こんな目立たない裏庭の隅に建っているのも不思議だと思って見ていた。<br />「控えめな人だったんだね……。ボビー・マイケルは……」<br />　少し冷たい風が頬を刺す。眠るでもなく律希は目を閉じた。しばらくの静寂。不思議な鳥の鳴き声が聞こえた。<br />　そのざわつきの中から、律希は小さな声を拾った。<br />「律希……」<br />　目を開けると、そこには桐がいた。日の光を後ろから受けた桐は、髪が金色に透けて、息を飲むほど美しかった。思わず夢でも見ているのかと疑った。<br />「律希、こんなトコで寝ると風邪引くよ……」<br />「え……ああ……うん……」<br />　まだ頭がボンヤリしている。桐を見るのが、何となく恥ずかしくて、体を起こしても顔は下を向いていた。<br />「桐は……何してんの？　授業、始まってんじゃね？」<br />「うん……。でも、休み時間に律希がこっちの方に行くの見えて……。なんとなく来ちゃったんだ……」<br />「一緒にサボんなくてもいーのに……」<br />　桐は首を横に振って、律希の隣にそっと座った。<br />「休み時間、全然会えないから……」<br />　律希が目を横に向けると、膨れ面の桐がいた。心がポカッと温かくなる。寂しく思っていてくれたのかと思うと、嬉しかった。<br />「ごめんな……。最近、ずっとこんなんで」<br />「フジミーも寂しがってるよ。律希、前に言ったじゃん。新しい俺を見て欲しいって。けど……ゆっくり話せたのだって、この間寄り道したハンバーガー以来だよ。こんなんじゃ……見れないよ……。寂しいよ……」<br />　桐はずっと言いたかった言葉をやっと本人に伝えることができて、安心したのか涙がポロポロと勝手に零れ落ちた。<br />「ああっ、桐……。泣くなよぉ……」<br />　律希が慌てて自分の袖を差し出した。<br />「もう、泣き虫……。桐らしいけど」<br />　困ったような八の字眉毛で笑う律希は、昔そのものだった。<br />「だって……」<br />「悪かったよ。俺も躍起になりすぎてた。どうしても、自分の手で見つけ出したかったから……」<br />「何……探してんの？」<br />　そう聞いておきながら、桐はドキドキしていた。薄っすらと予想はついている。金ボタンだと言われるのではないか……。心配で手が震えた。金ボタンはここ。そう、自分の胸元で揺れている。<br />　しかし、律希の答えは別物だった。<br />「ブレスレット……」<br />　聞き取り難い小さな声で、諦めたようにポツリと呟いた。<br />「ブレスレット？」<br />「……うん……。どっかで落としちゃって……探してんだ。大事にしてたから……」<br />「そっか。そうだったんだ……」<br />　桐は戸惑った。金ボタンは、そのブレスレットに付いていた物。律希が本当に探しているのは、金ボタンじゃないかと思う反面、不安も増す。ブレスレットまで辿り着いたのに、どうして金ボタンを思い出さないのだろうか……。本当に律希はブレスレットだけを探しているんじゃないだろうか……。金ボタンを見せたところで、何も思い出さないんじゃないだろうか……。<br />　色々な想いが重なって、桐は金ボタンのことを言い出しきれなかった。足元に目をやると、そこにはクローバーがいくつも生えていた。見る限り四葉はない。心が締め付けられる。こんな裏黒い気持ちを持っていたら、律希には相応しくないと思えた。<br />　……四葉も見つかるわけないよね……。律希のように、心の綺麗な人の元へ行くもんだ。俺のところになんか、現れるはずない……。<br />　空は晴れているのに、心はどんよりと曇っていた。<br /><br />　律希は、下を向いて暗くなっている桐を、不思議に思って覗き込んだ。<br />「どうしたの？　桐」<br />「うわっ」<br />　近い位置の律希の顔に驚く。<br />「なんだよ……。暗いぞ！　悪かったって言ってんじゃん。分かった。今日は俺、桐と過ごす！　な？　それでいいだろ？　もう探しモンやめーっ！」<br />　律希はそう言って、伸びをしながら、また後ろに倒れた。大きな欠伸をひとつする。桐が妙に思い詰めた表情をしていることが、気に掛かる。記憶を失くしてからは、彼について知らないことが多すぎる。何で悩み、何で喜ぶのか全く掴めなかった。<br />　他にも、どこに住んでいるのか、何をしているのか……。何が好きなのか、嫌いなのか。桐から言われた通り、ちゃんと知りたいと言った手前、それについて行動を示さなかった。ほったらかしにして、ブレスレット探しにばかりに囚われていた。桐が不満に思うのも当然だと思えた。<br />「なあ、桐。学校の裏って何があんのかね」<br />　律希は寝転がりながら、その方向を指す。<br />「学校の裏？　山なんじゃないの？　茂みかな……」<br />　小高い丘の上にある校舎は、周りを鬱蒼と生い茂る森に囲まれている。木が塀の代わりをしてくれていて、校舎の裏側は遮るものが何もなく、簡単に学外へ出ることができる。　しかし、校門側でないと、街への道も無く、誰もそこから外に出ることはしなかった。自然の壁が一番厚いことを、生徒たちは皆知っていた。<br />「なあ……。行ってみない？　あっちの方」<br />　律希が悪戯っ子の目でニヤリと笑った。何も面白いものなど無さげな森の道も、律希が望むと、桐にとっては最高のデートコースになる。不思議と心が躍った。<br /><br /><br />　二人はその方向に歩みを進めたが、薄暗い木々の色と影が、いつまでも続くだけだった。雰囲気は昔読んだ物語を思わせる。図書館で、律希と並んで色んな物語を読んだ。たくさん本を読んでいた律希は、予想以上に多くの本を紹介してくれた。何度も、話の登場人物を自分と律希に置き換えた。幸せな話の中に身を置いていたかったあの頃……。<br />　桐が思い出を懐かしみながら歩いていると、律希の歩幅が少しずつ狭くなっていることにようやく気づいた。周りをキョロキョロと眺めている。桐は不思議に思った。<br /><br />　律希は歩きながら、胸の鼓動がドキドキと速くなっているのを感じていた。覚えている。ここは、以前誰かにメチャクチャに殴られた場所だった。なぜ殴られたのかは思い出せないが、男数人に囲まれて、リンチを受けた。胸がズキッと痛む。磁石でも狂っているのではないかと思うほど、景色がグルグル回っている気がして、へたり込んだ。<br />「律希！　どうしたの？」<br />　桐が慌てて、蹲ってしまった律希に身を寄せる。<br />「あ……ううん。大丈夫……。何でもない……」<br />　跪いて起き上がろうとしたが、立ちくらみがしてうまく立てなかった。地面が近い。その時、不意に律希の頭にひとつの可能性が過ぎった。<br />「あっ……。もしかして……ここに！？」<br />　律希は、這いつくばって土の上を眺めた。あの時、殴られた拍子にブレスレットを落として失くしたのではないかと思った。<br /><br />　トカゲのように這いつくばってキョロキョロしている律希を見て、桐は戸惑った。<br />「なっ……。何してるの！　律希！」<br />「ごめん。でも……ここ……覚えてんだ。もしかして……ここで失くしたのかもしれない……」<br />「こんなとこ、何しに来たの！？　きっとここには無いよ！　戻ろう！」<br />　律希の姿が狂気じみていて、桐は一刻も早く元に戻したかった。一生懸命、律希の制服を引っ張ったが、それは功を奏さなかった。<br />　律希は夢中で地面を探した。草を掻き分けても、場所を変えても、それらしき物は全然見つからなかった。ここで殴られた経緯も思い出せない。悔しくてたまらなかった。<br />「ぜってぇここにあるよ……。じゃなきゃおかしーだろ……。なんでこんなトコで殴られてたんだよ……俺……」<br />　その言葉に、桐は心臓をえぐられたような気持ちになった。すぐに１枚の写真を思い出した。星彦と付き合っている時、脅しとして使われた律希のボコボコに殴られた写真。あの背景は、ちょうどここと同じ、鬱蒼と茂った山の中だった。<br />　桐の鼓動は、最速に脈打っていた。このまま血管が切れて、死んでしまいそうなまでに……。胸元の金ボタンが、不思議なほど熱かった。まるで何かを訴えているかのように、熱を帯びている気がした。<br />　……熱いのは……心臓？　金ボタン？　……<br />　このまま流しておけない。こんな律希の姿を見て、まだ自分の心を一番に考えているような人間は、彼に相応しくない。彼に愛し愛される資格はない。桐の唇はブルブルと震えていた。不安で、恐ろしくて、桐の頭は真っ白になる。耳にドクドクと心臓の動く音が直接聞こえてくる。そんな心臓が口から出るかのように、桐の口から勝手に言葉が出ていた。<br />「律希の探し物って……これ……？」<br />　桐は律希の前に立ち、胸元から外した金ボタンを差し出した。<br />「え……？」<br />　律希は地面から顔を上げ、桐の手に視線を合わせる。瞳に金ボタンが映っている。その視線が、ナイフのように手のひらを貫いているような気がして、桐は身震いをした。<br />　……怖い……。律希の次の言葉を聞くのか怖い……。<br />　いつもだったら、ずっと聞いていたい優しい声が、今では一番聞きたくない。律希が作り出す沈黙が重い。<br />　しばらく考え込むように、金ボタンを見ていた律希が、ついに口を開いた。<br />「……違う……」<br />　雷に打たれたような衝撃が桐を襲う。ショックで死んでしまいそうだった。<br />「探してんのは、ブレスレットっつったじゃん。これじゃねーよ」<br />　そう言って、律希は残念そうに笑って、目の高さに金ボタンをぶら下げた。その行為が、とても軽々しく見えて、桐は怒りが沸々と湧いた。力任せに律希から取り上げると、手が滑って金ボタンを落としてしまった。ますますいらない物のような気がして、何も考えられなくなる。<br />　思わず、そのままにしてその場から逃げた。律希が呆然としていた。しかし、桐にとっての最後の切り札が、崩れた今、何も残されていない絶望に耐え切れなかった。このまま死にたいとすら思った。 ]]>
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<dc:subject>桐と律希</dc:subject>
<dc:date>2009-10-30T20:21:38+09:00</dc:date>
<dc:creator>少年甘味堂</dc:creator>
<dc:publisher>FC2-BLOG</dc:publisher>
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