Be Lush High School〜僕たちのドキワク☆な日々〜
少年甘味堂が送るボーイズラブ小説・イラストブログ

桐と律希 第二部(145) 〔ちゃきろー〕

 その日は、律希お手製のソバを食べて、年越を迎えた。律希の作った年越ソバは、類哉直伝だけあって、味が良かった。それを褒めると、また嬉しそうに笑った。
 盛り上がりに欠けるボードゲームも、律希が喜んでいるのを見るだけで、幸せだったし、借りてきたDVDも厳選しただけあって、面白かった。酒の力もあって気分も良く、波乱万丈だった1年を忘れるほど幸せな正月だと、荻島は思った。
 律希の方も、こんな楽しくて心踊る正月は初めてだと思えた。いつも施設で過ごし、去年は寮でウガンダと一緒だった。ウガンダの作った年越ソバもまた美味しかったが、今日自分が作った物が数倍美味しく感じられた。幸せというスパイスが料理も、何もかも美味しくさせているのだと知った。
 いつの間にか、DVDを見ていた荻島から、寝息が聞こえてきた。
「あれ〜? 宗ちゃん、何だよ……。寝ちゃったのかよ……」
 いつも先に寝てしまうのは律希の方。さっきからほろ酔いだった荻島だけに、仕方ないとは思っていた。
「つまんね……。1人でDVD見ても、突っ込めないじゃん……」
 律希は渋々、奥の部屋のベッドから布団を引っ張り出した。荻島に掛けてやろうと運んでいたら、ガサッと机に当たってしまい、まとめていたファイルがバサバサと落ちる。
「げっ……。どーしよ……」
 律希は慌てて拾った。その中にあった、一枚の便箋が律希の目を引いた。
「なんじゃこりゃ……。まさか……」
 それは明らかにラブレターと思われた。
「ひぇ〜。今時……超純情じゃん」
 読んではいけないと思いつつも、好奇心が律希を大人しくさせてくれなかった。
「ごめん……」
 小さく呟き、その便箋に視線を落とした。書き出しで終業式の日に送られた物だと分かった。

『荻島先生。昨日はお疲れ様です。
救急車騒ぎがあったり、病院に付き添われたり、荻島先生ばっかり大変な目に遭っているのが気になります。
噂によると、逢沢律希君の面倒まで見るそうですね。彼は先生の何なんですか? 
彼ばかりが良い目に遭っているのは納得いきません。
僕は何度かこうして手紙を書かせてもらっていますが、その度、先生からは優しい返事が来るのみ。
僕も正直、逢沢君みたいに先生に見てもらいたいです。
逢沢君が先生の恋人なら、仕方ないと思います。でも、先生と生徒なんですよね?
もしも僕のことを生徒扱いするなら、逢沢君のようにお家に行ってもいいですか? 
それとも、もし僕を恋人として見てくれるなら、そういうのは我慢します。問題となって先生に迷惑をお掛けしたくないですから。先生の恋人になれるなら、そんなの耐えられます。
だから、先生の気持ちを聞かせてください』

 律希はその文章に居たたまれなくなった。
「読まなきゃ……良かった……」
 心が重くなる。散らばった資料をキレイに元に戻し、寝ている荻島に布団を掛けた。
 ……そうだよね……。宗ちゃんのことを好きな人にとっては……俺みたいなの……イヤなもんだよね……。
 さっきまでの幸せな気持ちは一転していた。自分だって、荻島から他にもこんな風に手厚く守られている存在がいたなら、気分悪い。さっきの手紙ですら若干イラッときているというのに……。
 心が落ち着かない。律希は、思わず荻島の飲みかけの酒に口をつけた。
「にがっ」
 中途半端に空いていたビールは温くなっていて、とても美味しいとは思えなかった。それを美味しそうに飲む大人が羨ましかった。
「もっと……大人になれば……美味くなるのかなぁ……」
 自分と荻島との違いを見せ付けられた気がして、無性に悔しくなった。お前は荻島に不釣合いと言われているような手紙、ビール……。どんどん気持ちが沈んでいく。
 律希は立ち上がって、冷蔵庫の中を眺めた。目の前には荻島が買ってくれたケーキの箱がある。その奥には常時置いてくれているプリンもあった。しかし、律希はそれを避け、その下の段に並んでいるビールの缶を取り出した。
「何だよ……。甘い酒もいっぱい売ってんのに……何でビールばっか……」
 その発想が、すでにお子様めいていて、恥ずかしくなった。ビールを2、3本手に取り、居間へ戻る。相変わらず荻島は気持ちよさげに眠っていた。それを確認してから、律希はビールを開ける。プシュッと良い音がして、さっきより少し美味しそうに感じた。一気に流し込んでみると、味もさっき飲んだ時より美味しく感じた。飲んでいるうちに大人になれそうな気がして、早いペースで缶を空けているうちに、フラフラになっていることに気付いた。
 しかし、そんなことはどうでもよく思えた。頭がボーッとしていて、うまく働かない。妙に可笑しくなったり、無性に悲しくなったりした。何故か寝ている荻島に無意味に近寄りたくなった。
「そうちゃ〜〜〜〜んぅ〜〜〜〜」
 猫のように頭を摺り寄せてみる。支えて欲しくて体重を乗せてみたが荻島はまだ起きなかった。
「起きてよぅ〜〜〜〜」
 グリグリと頭を押し付けていると、やっと異変を感じて荻島が目を覚ます。
「ん……? あれ? 律希?」
「宗ちゃん! 寝ちゃダメなのら〜!」
 いつもはクリクリの目が、今はどうしてか据わっていて、荻島はその豹変振りに驚いた。
「律希? どうした……って、お前、ビール飲んだのか!?」
 テーブルを見ると、眠りに落ちる前から比べて明らかに増えているビールの缶があった。
「なんだよぅ! いーじゃんか! あったんだからさぁ!」
「何、言ってんだよ。とにかくお前はもう寝ろ!」
 慌てた荻島は、テーブルの上に置いていたメガネを掛けて、律希の姿勢を正した。
「ダメーッ! ヤダーッ! まだ寝ないもん!」
 酔いが回っている律希は、そう喚いて、バタバタと暴れ始めた。荻島は困り果ててしまった。
「お前なぁ……。高校生だぞ! 酒飲んじゃダメだろ!」
「ダメだろーっ! ダメタローッ! ダメ太郎! あははは……」
 何が可笑しいのか、1人でしきりに笑っている律希。今日ほど先に寝てしまったのを後悔した日は無いと、荻島は思った。ひとしきり暴れる律希を取り押さえ、やっとの思いでベッドルームへ連れて行った。
「律希! 寝なさい!」
「ヤダヤダヤダーッ! ぜーーーーったい寝ないもんねーーーーっ!」
 と、またベッドの上でもバタバタと駄々っ子のように手足を激しく動かす律希を、上から圧し掛かって押さえ込んだ。やっと大人しくなったのにホッとしていると、目の前に律希の顔があって、途端に荻島は我に返った。酔った律希は上気していて、目も潤み、いつも以上に艶があった。一気に股間が熱くなってしまうほどに。
「宗ちゃん……」
 それに気づいたのか、律希が舌を出して誘ってくる。
「な……何してんだ! 律希!」
「いーじゃんよぅ……。宗ちゃんの……ちょーだい。ね? いいでしょ?」
 そう言うと、律希の方から唇を求めてきた。激しいキス。今までの律希の性生活が垣間見られるような舌の動きで、荻島は思わず快感に身を委ねそうになっていた。それでも辛うじて抑えて、律希の唇から逃れる。
「律希! やめなさい! しっかりしろ!」
「しっかりしてるよぉ! 何だよ、ちょっとくらい良いじゃんか!」
 律希は荻島のズボンに手を掛けて下げようとしていた。それを荻島は必死で止める。
「やめろ! 律希! お前はそんなことしちゃダメだ!」
「宗ちゃんだって……したいんじゃないの……? だって、おっきくなってるよ……」
 ずっと想っていた律希に上目遣いで迫られて、勃たないはずがない。しかし、荻島は何とか理性を保たせて、律希の肩を押し、引き離した。
「お前は今はこういうことをしちゃダメだ。我慢するんだ、律希。誰でもしていいもんじゃない!」
「誰でも……だなんて……そんなこと……言うなよ……」
 律希の目からポロポロと涙が零れ落ちた。まさか冷静になっているのではないかと勘繰ったが、蕩けたような目は変わっていなかった。
「すまない。律希……」
「じゃあ……。しよ……。ね? 俺、宗ちゃんだったら何でもできる……。キスもフェラもセックスも……何でも……」
 そう言って、律希がまた舌を伸ばして求めてくる。理性が抑えられなくなりそうだった。その舌に吸い付いて、何もかも奪い去ってしまいたい、そう思った。
「律希……」
 唾液で艶めく律希の舌に、自分の舌を絡ませた。頭が痺れそうな快楽が襲う。
「んっ……うっ……ん」
 舌を絡ませあう時のピチャピチャという水音が、それだけで体を熱くさせる。苦しそうな律希の吐息も欲情を煽る。
「律希……律希……」
 唇から首筋に下ろし、鎖骨まで辿り着くと、律希が「あっぅん……」と身悶えた。性感帯のようで、全身をビクビクと震わせている。
「宗……ちゃん……あっ……はぁっ……」
「律希……」
 律希の服を開いて、胸の突起に指を伸ばす。こねくり回すと律希の口から喘ぐ声が聞こえる。
「あっ……ん……」
 いつも可愛い憎まれ口を放つ唇から、いつもとは違う妖しい声が零れる。自分の欲望がどんどんそそり立っていくのが分かった。乳首に舌を這わすと、律希は後ろに小さく仰け反った。
「あっあっ……きもち……いい……」
 吸い付く度に、律希の呼吸が荒くなっていく。そんな状況に自分もますます高揚していく。しかしその瞬間、一瞬で冷静になる言葉を拾ってしまった。
「宗ちゃん……。好き……。宗ちゃんが……すごく好き……」
「り……つき……」
 尚も抱き付いてキスを迫ってくる律希の体を引き離した。
「ど……して……?」
 律希は不思議そうな顔をしていた。その頬は赤らみ、艶めいていて、今すぐにでも抱き締めて自分の欲求を満たしたかった。それでも、律希の言う「好き」の相手が自分ではないことが引っ掛かって仕方がない。このまま律希を抱いてしまったら、あんなにも憎んでいた、律希を無理やり抱いた人間と自分が同じになってしまうような気がした。
「ダメだ……。律希……。ごめんな……」
「え……?」
「俺には……できない……」
 その言葉に、律希の目から一筋の涙が零れ落ちて、頬に伝った。そして少しの間、俯いた律希は、次の瞬間顔を上げてニッコリと笑った。
「なーんちゃって! そんなことしねーって! ビックリしたろ〜! あははは……」
「律希……?」
「あはは……。マジ、ビックリしてんの! 超おっかし〜! も〜ダメ! あの時の宗ちゃんの顔! マジおかしすぎ!」
 酔いが醒めていないのか、1人で笑い転げてベッドにうつ伏せになった。そして律希はそのまま何も言わなくなった。
「律希? おい……。大丈夫か?」
 荻島は律希の後頭部をポンポンと軽く叩いたが、何の反応もない。そのうちに、スースーと寝息が聞こえてきた。
「まさか……寝ちゃったのか……?」
 何をしても何の反応も見せない律希に、荻島はガクッとうな垂れた。
「律希……。お前……」
 律希に布団を掛けてから電気を消して、寝室を出た。最後に見た、律希の頬に掛かる一筋の涙が忘れられない。
 ……俺は……選択ミスをしたのだろうか……
 律希を好きな気持ちは今も昔も変わりない。記憶を失っているのが律希の運命ならば、誰に遠慮することも無かったのでは……。そう考えると、なりふり構わず抱いてしまえば良かったとも思う。
 煮え切らない想いを断ち切るためにも、酔いを醒ますためにも、荻島はシャワーを浴びに浴室へ向かった。光るほど磨かれた浴室に、律希への愛しさが募って、涙が出そうになった。頭からシャワーを浴びて誤魔化そうとしても、切なくなる自分の心だけが誤魔化されなかった。

テーマ:自作BL小説 - ジャンル:小説・文学

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